これもおなじみ、お題を頂いて即興で小噺を作るおあそびです。
「芝浜」「酔っ払い」「財布」のような三題噺も良いかも。 |
「なんやお前、その葉書、7月に買ったやつやろ?まだ暑中見舞い書いてるんか?」 「うるさいなあ、丁度今書き終わったとこや。でもなあ、もう残暑見舞いになってしもたがな。どないしよ。」 「そんなもん、郵便局へ持っていってやなあ、少し手数料はかかるけど、新しい葉書に変えてもらえや。」 「また書くんか?今からそんなことしたら秋になってしまうやないか。」 「それやったら、修正インクで暑中の文字を消して、上から残暑と書けばええやないか!」 「あかん、修正した跡が残るやろ。こいつ残暑みたいな簡単な字を間違えよったと、思われたら恥ずかしいやないか。」 「だったら、出した人みんなに電話して、残暑みたいな簡単な字を間違えたんじゃないです、って説明せえや!」 「葉書を出してまた電話する?それやったら初めから電話で暑中見舞い済ますわ!んっ?あっ!!」 「あ〜あ、興奮して腕を振り回すもんで、花瓶を倒しやがった。せっかく書いた葉書がみんなビショビショやがな。」 「お前が適切なアドバイスしてくれへんからや!もうええ!いつもの皮膚科の先生に相談してみる!」 「確かあの先生は、実家がどっか遠いとこやったで。お盆で里帰りしてるんとちゃうか?」 「大丈夫。こんだけ派手に水をこぼしたんや。盆には帰らない。」
「こんちはー。」 「おや、源さんじゃないか、どうしたんだい。まあここじゃなんだ、お上がりなさい。おーい、婆さんビールを出してくれ。」 「へえ、どうもおじゃましやす。いやね、大家さんに暑中見舞いの挨拶をと思いやしてね。」 「それは御丁寧にどうも。まあ一杯やっとくれ。」 「どうも、ごそうさんです。」 「しかし源さん、すごい汗だね。」 「へえ、歩いてきやしたんで。」 「この炎天下にかい。だいたいお前さんは隣町に越したんじゃないか、わざわざ歩いてあたしの所へ挨拶に来ないで、はがきで十分じゃないか。」 「いえね、口幅ったいことを申し上げるようですが、それじゃあ味わいってもんがないじゃありませんか。」 「お前さんも随分柄にも無い事を言うね。でもまあ確かに、はがきでやり取りてのも無機質かもしれないな。それに越して行った店子が、わざわざ来てくれるってのも、わが子が帰ってきたようで悪い気もしないもんだ。」 「いや、はがきだけこちらに伺っても、炎天下を歩いた後のビールを只で味わえないと。」
「うわ、なんだおまえのへや、足の踏み場もないじゃないか。」 「おい、踏むなよ、俺が一生懸命集めているやつばかりだから。」 「ったってこれ、ぜんぶなんかのおまけだろ、お茶のペットボトルとかコ−ラとかについていたやつ、こんなもの大事にあつめてるか?普通?」 「そんなこというけど、これはたいへんなすぐれものなんだ。この大きさでこの正確さ、みつめているとだんだん愛着がわいてくるだろう。」 「おまえつい最近まで鉄道マニアだと思ってたけど、その前は天文マニアで、その前はリカちゃん人形のコレクション、コレクションといえばGIジョ−とかもあったよな。あ、それからヒ−ロ−船隊物のフィギュアとか、そのつどおまえはのめりこむんだから。」 「いや、今回は以前と違って熱の入り方がちがう、じぶんでわかるんだ。ほれ、これなんかまるでほんものみたいじゃないか。」 「・・・・・そういえば、まだおまえに暑中見舞い出してなかったな。口頭でわるいけど、暑中お見舞い申しあげます。」 「な、なんだよおまえこそ突然なやつだな、、」 「いや、やがてアキがくるからさ。」
「なんか雨ばっかりふって、どうも暑中見舞いを出すタイミングがつかめなくて、、」 「残暑見舞いに書き直したらいいじゃん。」 「いや、これすでに年賀状を書き直したやつなんだ、、、」
「鯨の親分、魚たちから暑中見舞いが届いています。鯛に平目にペンギン他、ざっと30通ほどです。到着順に紹介します。」 「最初は、サバか。さすが足がはやいな。『暑中お見舞いもうしあげます』定型文に珊瑚の絵か、つまらん。」 「次は、イカです。コンバースの靴が5足描かれています。なかなかオシャレですね。」 「しかし、その次のタコはナイキの靴が4足だ。どちらかが真似しおったな。その次は誰だ?」 「鮫(さめ)です。『また親分の油を分けてください。鮫肌を治したいから。』そして鰹(かつお)がワカメの絵、そして・・・」 「どいつもこいつもツマラン。もっとましな暑中見舞いを出す奴はいないのか。」 「次を見てください。マグロのは、ツナ缶の引換券付きですよ。」 「うむ、やっぱり暑中見舞いは、マグロに限る。ここで終わりにしたいが、まだあるのか?」 「あと1枚。最後に届いたのは、ペンギンからの暑中見舞いです。」 「おかしいと思ったんだ。やはり、ペンギンは トリ だ。」
「どうしたい、なんだか浮かない顔して、」 「いや、ちょいと気になってることがあるんだ。暑中見舞いもらったんだけど、差出人にぜんぜん心当たりがないんだ。」 「おまえ忘れっぽいからな、差出人はちゃんと書いてあるじゃないか、それにおまえの名前も住所も。キチンと手書きで書いてある、DMのたぐいじゃない。きっとどっかであってるはずだって。一度もあったことのない人から暑中見舞いなんて届くわけがない。もう一度考えてみろよ。」 「そうなんだよな、俺もそう思って考えてるんだけどな。とりあえず返事だけは出しておいた。『草々に暑中見舞いありがとうございました』って。」 「あきれたね、判らない人に返事書いたのかい、文句はどうした?」 「こんなものだいたいが定型文書だから。それに今年が始めてじゃないし・・」 「なに?それはどういうこと?」 「いや、ずっと前の年賀状や暑中見舞いからこんなやり取りが続いていて、今にはじまったことじゃないんだ。この調子だと一生つづくかも、いまさらどちらさんでした?とも聞けまい。」 「・・・もう一度みせてくれ、ああ、やっぱり相手の名まえは白八木さんだ。これは君の宿命だよ、黒八木くん。」
「教授!すごいっすよ!平安時代の物と思われる暑中見舞いの紙がでてきました!」 「病院で大きな声を出すんじゃない。平安時代に、そんなものがあるわけないだろう。」 「今、年代測定をしてもらってます。急に倒れられたから心配したけど、もう具合はいいんですか?」 「ただの夏バテだ。病室内は涼しくて快適だが、酒を飲めないのがつらい。」 「そう言うと思って、教授の好きな焼酎を持ってきましたよ。これがほんとの 焼酎見舞い、なんちゃってえ。」 「つまらないことを言うんじゃない。看護士が来る前に、ほら、コップを用意して。」 「とかなんとか言って、退院したら学長に使うつもりでしょ。おっ、メールが来ました。教授、調査報告です。」 「なになに、『この紙は894年、遣唐使が廃止になった年に唐から持ち込まれたもので、国内で書かれた物ではない』とある。」 「な〜んだ、日本の暑中見舞いじゃないんだあ。それじゃあ価値がないよ。教授、この調査、まだ続けますか?」 「遣唐使が廃止になった年の紙だろ。調査は、白紙に戻そう。」
「殿、国元より暑中見舞いの使者が参りました。」 「うむ、かまわぬ通せ。」 「お許しが出たぞ、お通りいたせ。」 「暑中お見舞い申し上げまする。ますます御壮健な様子で何よりで御座いまする。」 「うむ、使者の任、ご苦労であった。そちも壮健な様子、何よりじゃ。これ三太夫。」 「はっ、何用で御座りましょうか。」 「うむ、使者の労をねぎらってやりたい、何か涼やかで珍なる座興などは無いか。」 「はっ、それでは下々の間で流行っている「肝試し」なるものは如何で御座りましょうか。」 「うむ、どの様な座興じゃ。」 「はっ、夜な夜な墓地などの物の怪の出そうな所へ赴き、その恐怖から涼を得るそうに御座いまする。また、おなごどもを同道させると、縋り付いて来た拍子にあの様なところや、この様なところが触れてくるという、涼やかでありながら熱い座興であると聞き及んで御座いまする。特に印智貴寺の墓地が恐ろしいとの話で御座いまする。」 「うむ、珍なる座興であるな。三太夫、用意いたせ。」 「はっ、承知いたしました。」 「殿、大変流行っているようで御座いまして、舟遊びなど他の座興では如何で御座いましょうか。」 「その様に流行っているものならば、余は「肝試し」とやらがやってみたいぞ。何か問題があるのか。」 「噂を聞き及んでか他の旗本、大名なども印智貴寺の墓地に繰り出して御座いまする。」 「かまわぬではないか、将軍家ならまだしも他家に対して当家が遠慮しなければいならない道理はあるまい。」 「はっ、遠慮する道理は御座いませぬが、墓中込み合い申し上げまする。」
「珍しいねえ。筆不精のお前が手紙なんぞ書いてるなんて。」 「大家さん、あんたがこの前、日ごろお世話になってる人に暑中見舞いでも出しなさい、って言ったんじゃないですか。」 「はは、そうだったな。でも、8月8日の立秋までに出すんだぞ。それ以降は、残暑見舞いになるからな。」 「えっ?まだくそ暑いにに、立秋を過ぎたら残暑見舞いですか?大家さんみたいですね。」 「私と残暑は関係ないだろう。」 「まだ面(つら)の皮が厚いのに、還暦を過ぎたら、残尿だ。」 「なるほど・・・いや、失礼な奴だ。ま、確かに残尿感はあるが、尿漏れはしておらんぞ。」 「ともかく、言われたように、友達、親戚、長屋の奴ら、知ってる人み〜んなに書いてますから。」 「うむ、私の分も忘れず書いて、もれ が無いようにしろ。」
「なんで真夏にこんなク−ラ−もないような店でコンパ企画したんだ!おまえ結婚相手さがす気なんだろう?女の子なんて化粧がくずれかけてるぞ。絶対印象悪いって!!」 「なに、これぞ暑中お見合い!」
「こんにちは,ご隠居さん。あついですね、もう汗が滝のようですよ。」 「おや、くまさん。本当に暑いな。」 「あれ、ご隠居なにしてんですか?あ、手紙を書いてたんですか、」 「ああ、暑中見舞いをな。日頃ご無沙汰ばかりしているのでな。」 「なんすか?そのしょっちゅうみまいってのは?」 「あのな、こく−んさんのさげをくすぐりにするんじゃない。暑中見舞いじゃ。暑い中お体をいたわってお見舞い申し上げるっていう挨拶のことだ。」 「へえ〜、いってみりゃ真夏の年賀状ってとこですか?」 「・・そのとうりっていっていいのか迷うけど、おまえさんがそれで理解できるんだったらそれでいいよ。」 「それって、やっぱりこの時期に送るんですよね?」 「ああ、昔はお宅を訪ねていったもんらしいが、現代はこの郵便でだすのが主流だな。この流れでいくと電子メ−ルの暑中見舞いがそのうち一般的になるかもな。そうそう、時期はだいたい夏の土用くらいまでとされておる。それをすぎたら残暑見舞いだ。」 「けどね、ご隠居。あっしのつれの妹がだんなの海外赴任でオ−ストラリアにいってるんですけど、そこも暑中見舞いになるんですか?ハワイにいる友達にはいつから残暑見舞いになるんですか?南極観測昭和基地の人には・・・」 「おまえさんときどき変に中途半端な知識があるね。しらないよそんなこと。それよりもくまさん、おまえもだれかに暑中見舞い書いたらどうだ?さいわいここにはがきならあるから。」 「そうですかい、じゃ内のかかあのおやじさんにでも書いてみますか。えっと、どう書こうかな、お義父さんおあつうございます、なんかかてェなあ。あついかい?って風呂みたいだし、、、ご隠居このはがきちょっとかしておくんなせい。うちでよく考えて書いて出しますから。」 「よく考えるのはいいが、残暑見舞いにならないようにな。」 「へへ、やだなご隠居。いまのうちに義父にオ−ストラリアへ引っ越しといてもらいますよ。」
「暑いねえ、みまい。」 「おう、暑いなあ。」 「カキ氷でも食いたいねえ、みまい。」 「俺はソフトクリームの方がいいけどね。」 「市民プールにでもいくべ、みまい。」 「じゃ、家に帰って水着を取ってくる、って、さっきから何言ってんだ?」 「しょっちゅう みまい。」 |
「おっ! 見ろよこいのぼりだ。」 「ん、あぁそうだな。」 「俺も子供の頃、親父が毎年立ててくれたな。そのときのこいのぼりが今でもあるから、いつか立てたいなと思ってる んだけど、家は女の子が二人だろ立てる機会がなくてね。」 「そうなんだ。」 「なんだよ随分気の無い返事だな・・・ すまん忘れてた! お前んとこのかみさん、子供連れて出てっちゃったんだな。」 「いや、そんな事はどうでも良いんだ、なんせ俺も忘れてた。」 「じゃあなんか他に気にかかってることでもあるのか。」 「いやさ、こいのぼり見てたら、めざしで一杯やりたくなった。」
「若旦那、板と のこぎりなんか持ち出して何をしてるんですか?」 「私はね、こいのぼりを改良してるんだ。滝を登るかどうか知らないが、風向きに逆らってみんな泳いでいるだろう?」 「そりゃあ、右から風が吹いてるとしたら →@ってなりますよねえ。それと、こいのぼりの形に板を切るのとどんな関係が?」 「私は風に逆らわず楽に生きたいんだ。右からの風なら @←となるように板に釘でこいのぼりをうちつけて、サオに打ち付けて、と。」 「なるほど、固定しちゃうんですか。でも、尾からサオに付ければ ←@ってなりますよねえ。もっと簡単ですよ。」 「え?早く言っておくれよう。これだと、風向きが変わるたびにくるくる回さなければいけないと思っていたんだよ〜。」 「立派なこいのぼりが平面になりましたねえ。でも、今からまた元に戻すんですか?」 「いや、板に打ちつけたから、私らしく 板についてる ってことでどうだ?じたばたするのはよそう。」 「じたばたしない?なるほど、まな板の上の鯉 だ。」
「おい、あの子供を見ろよ。枝にくくり付けてるこいのぼり、よく見ると折り紙で作ってあるぞ。」 「ほう、上手に折ってあるねえ。そうとう時間がかかったろうなあ。細かいとこまで丁寧に作ってあるぜ。」 「楽しそうにこいのぼりを持って走ってるよ。ん?あいつは、近所でも評判の悪がきじゃねえか。」 「あの子が?まさか。無邪気な子じゃねえか。あっ!夢中で走ってるから、ご隠居にぶつかったよ。」 「見てろよ。あいつはどんな悪さしても、自分からは絶対謝らねえ折り紙つきの悪だ。あかんべして逃げるだろうな。」 「いや、ちゃんと頭下げてるぜ。ご隠居も、いいよいいよって感じで笑ってるし。ちゃんと謝ったじゃねえか。」 「へ〜。こいのぼりを作って目覚めたのかなあ。きちんと 折れてる。」
「おい、もっとスピ−ドでねぇのか、しまったなぁ、もう少し早く思い出せばなあ、」 「先輩まかしてくださいよ。こう見えても運転の腕に掛けちゃ少々自信があるんで。」 「どうしても今日中に帰りたいんだよ。な、たのむ。明日の昼飯奢るからさ、」 「先輩1人暮らしでしょ、門限があるわけないし、見たいテレビがあるとか」 「そんなものはDVDに留守録しておくよ。あ〜後10分しかない」 「大丈夫ですってば。もうあと5分でつきます。それよりも教えてくださいよ、なんでそんなに急いでかえらなきやいけないか。先輩はまだ一人者だから奥さんにおこられるってこともないし、」 「なんでって、今日は5月5日だろう、早く帰ってこいのぼりしまわないと。」 「先輩のところマンションなのにこいのぼりあるんですか?ベランダセットってやつですか?」 「いや、屋上に勝手に立てた。」 「か、かってに・・・・つきましたよ・・」 「よし、早くこいのぼりをおろすぞ,手伝え!」 「そんなあわてなくても・・」 「ばか、あしたになってはまずいんだ。お婿にいけなくなる・・」
「もうすぐ子供の日ですね。あちらこちらで鯉のぼりを見かけますな。」 「そうですね。」 「鯉のぼりの唄、知ってますか? 大きい真鯉はおとうさん、ってヤツ。」 「はいな。小さい緋鯉は子供たちってやつですよね。」 「そそ、あれいつも思うんだけど、お母さんはどこ行ったんだろうなって?」 「お母さん? お母さんは・・・死んじゃったんだ。」 「ほんとかよ。でもさ、あんなでっかい鯉だよ。葬式はさぞ立派だったんだろうね。」 「そりゃそうさ、弔問客いっぱい集まってきてな。さぞ立派な葬式だたろうな。」 「へ〜。じゃ、お墓なんかも立派なの立てたんだろうね。」 「いや、お墓はないんだ。「鯉は墓ない」って言うだろ。」
[え〜それでは、ただいまより全日本淡水魚連絡協議会定期総会をはじめます。私は今回議長のなまずです。どうぞよろしく。では提案動議のあるフナ君、発言をどうぞ。」 「はい。いつも思うのですが、5月になると“こい”だけが人間に重宝されて不公平です。こいのぼりとかいって子供の日のシンボルになってます。なにもこいだけが瀧をのぼるわけではなく、人間の言うように龍にかわるわけでもないのに、なんでこいだけ特別扱いになるのか、皆さんどうおもいますか?」 「私どもも川を遡ります。でもさけのぼりにはしてもらえません。」 「これは特別会員のさけさん。でもあなたは産卵後みじめですから・・・他のご意見は・・めだかさん」 「・・・・・・・・・」 「え〜声が小さくて聞こえませんので、あ、ブラックバスさん、食べないでください!!」 「こうなったら神様にどういうわけか直接聞いてみましょう。」 というわけで、魚達は神様にきいてみました。神様はいいました。 「ははは、こいのぼりに不公平を感じるのか、しかたないだろう、錦を飾れるのはこいだけだ。」
「あ、兄貴!いきなり走り出してどうしたんすか?青春ですか?夕陽も沈みかけてますよ。って、ま、待ってよ!」 「空を見ろ!この強い風で、こいのぼりが飛ばされてるぞ。あの異様に細いのは、大家んとこのだ。」 「本当だ。布代をケチって細くなったから、長屋のみんなで へびのぼり って呼んでるやつだよ。」 「きっと大家のとこでも探してるはずだ。先にみつけて溜まってる家賃を見逃してもらおう。見失うなよ!」 「一瞬でも兄貴をいい人と思った俺が馬鹿だったよ。親切じゃなくて打算だね。」 「暗くなっちまったな。おや?あそこに人だかりが できてるぞ。龍が飛んでいたって噂してる。ひょっとして!?」 「きっとそうだよ。騒ぎが大きくなる前に、あれは鯉のぼりで龍じゃないって説明しましょう。」 「それじゃ画竜点睛に欠くってやつだ。ついでに、作った大家がケチで蛇に見えるけど、龍のような足は無いって教えよう。」 「いや兄貴、それは 蛇足 です。」
「五月の空に泳ぐこいのぼりは、やはり壮大でいいなあ、」 「わたしは10月ごろまで元気よくおよいでほしいですなぁ」 「あなた、だれですか?」 「熱狂的な広島カ−プファンです。」
「殿、新しい城の図面ができあがりました。殿のお生まれになった5月にあやかって皐月城と名付けまする。」 「ほう、それは嬉しい。どれ、見せてみい」 「まず、生垣や庭のあらゆるところに皐を植えます。初夏にはさぞかしきれいに花が咲き誇ることでしょう。お庭にはさらに山羊を放し飼いにします。一日中『めぇ〜』っと鳴くでしょう。お堀は広くして、たくさんの錦鯉を泳がせます。これがほんとの『こいのほり』なんちゃって。」 「駄洒落ではないか。まあ、鯉がおよぐのもよいなあ。」 「それから城内にはたくさんの宴会場を作ります。家臣たちの英気をやしない、忠誠を上げるために夜な夜な宴会を催す所存、家臣だけでなく城下の庶民も呼んでやろうと、、、。」 「まてまて、いくら5月にちなんだとはいえ、そんな五月蝿いのはまっぴらだ。」
「おとうさん、こいのぼりが風にたなびいて、まるで踊ってるようだね。」 「タンゴの節句だからね。」
「こんちは、ご隠居。気持ちいい天気ですね。こういうのを五月晴れって言うんでしょうね。」 「はは、残念だけど違うな。」 「またまた、五月に晴れるでさつきばれ、あってんじゃないですか?」 「古い日本語は大体旧暦で考えなさい。旧暦の五月といえば今で言う6月中旬から下旬、梅雨の時期じゃ。くわしくはこんど『梅雨』というお題でもでたら語るとしよう。で、きょうはなんじゃ?」 「・・・あ、いやうちの坊主が学校でね、学校でこいのぼりの歌を教わってきてうちで歌ってたんですがね,あっしの知ってるのとちがうんでさ、あっしは屋根より高いこいのぼり〜て覚えているんですが、うちの坊主はなんでもいなかの波と雲の波なんて歌うんでさ。いなかの波なんてへんじゃねえですか。」 「あれは田舎の波ではない。いらか、つまり屋根瓦のことだ。屋根がいくつもいくつも連なったことで、田舎の風景ではない。」 「どうりでおかしいと思った.やっぱり屋根より高いだ。」 『私はこの歌の二番の歌詞が好きでね、百瀬の波を通りなばたちまち竜になりぬべき、わが身に似おや男子(おのこご)と、なんてところは本当に鯉の力強さを感じさせるきれいな日本語だな。」 「あっしにはさっぱり意味がわかんね。それ英語です、っていわれても信じちゃう。」 「こいのぼりだけにやっぱり難しいか?こいは思案の外とも言うからなぁ」
「教授!例の飛鳥お花見遺跡から、今度は布で包まれた男性のミイラが出ました!魚のウロコ模様の布です。」 「ミイラを包んでいるのは、こいのぼりだ。高貴な身分の男だな。80双糸の細番手の高級綿で織られている。」 「変わったところに目をつけましたねえ。教授なら、鯉のぼりだけに、丹後ちりめんって言うと思っってました。」 「おや?これは男ではない。産後間もない女性だ。骨の中のカルシウムが少ないわりに脂肪塊が多い。」 「またすごいとこに目をつけたよ。てっきり今度は、産後の節句 って言うと思ったのに。」 「・・・・・・・」 「言うつもりだったみたいだな。でも、鯉のぼりは江戸時代以降のものですよ。この遺跡は飛鳥時代じゃないってことに。」 「まずい。そうなると、今までの研究が水の泡だ。この鯉のぼりを燃やせ!証拠を消して飛鳥遺跡で押し通そう。」 「鯉のぼりはみんな見てますよ。どうしよう・・・きょ、教授、鯉のぼりの右目を切って、どうするんですか?」 「こうして左目に並べて縫い付ける。これで、飛鳥時代には平目のぼりがあったことになる。」 「さすが教授!目のつけどころ が違う。」
「警部!あの屋根の上見てください。あれは耐風データ偽造鯉のぼり事件の真鯉の奴ですよ!」 「待て!まだ他の人間と接触するかもしれない。しばらく泳がせよう。尾行するぞ!」 「あっ、女性が屋根の上に上がってきました。奥さんですかねえ。」 「子供たちも現れたぞ。家族で風に吹かれて笑っている。」 「本当だ。面白そうに およいでる。」 |
「ん〜いっぱい飲んだなあ。どうだ、ここの飲み代をかけて言葉遊びをしようぜ。」 「言葉遊びって何をするんだい?」 「交代で物の名前を言うんだ。何だっていい。先に、お漬物の名前を言った方が負け、代金を払う。」 「そんなの簡単さ。暑いとか痛いとかは思わず言うかもしれねえけど、漬物の名だろ?考えたら言う訳ないよ。」 「じゃ、今からだ。もう始まってるぞ、いいか。まず俺が先行だ。」 「じゃ、俺が こうこう だ。」 「はい、ごちそうさん!」
「ふう、きょうもよく呑んだな、ぼちぼち茶漬けでも食って帰るか、おい、おやじ、茶漬けくれ,茶漬け。」 「へい、ありがとうございます。」 「それと、なんかつけものをみつくろいで。」 「あ、すんませんだんな、きょうはつけものがみんな売り切れてしまいまして、梅干ししか、、」 「なんだい、つまんねな、おれはつけもの食いながら茶漬けを流し込むのが好きなんだ。つけもののない茶漬けなんか、矢口のぬけたモ−娘。みたいなもんだ、」 「・・たとえはよくわかりませんが、とにかく申し訳ありません。こんどみえたときはちゃんとたくさん用意しておきますから、きょうのところはごかんべん!!」 「しゃあねぇ、今度までに必ずだぞ!!ついでに勘定もつけといてくれ。」 「
「兄貴〜、なんで漬物を食べに、わざわざ六甲山まで来たんですか?」 「見ろよこの景色。それに六甲山の標高は931m、語呂で くさい だ。漬物にピッタリだろ?」 「ダジャレかよう。だったら、八甲田山の方が1584mあって眺めはいいし、漬物もうまいのに。」 「おまえ田舎は青森だったなあ。1584m?以後や〜よ じゃねえか。そんなとこに、うまい漬物はねえよ。」 「語呂合わせはいいんです!八甲田で採れたにんにくや長薯で作った漬物は、神戸に負けないくらい絶品ですよ。」 「にんにく?長薯?ただの田舎の漬物だろ?何が八甲田だ。六甲と比べたら上品さに欠けるんだよ。」 「青森を馬鹿にするでねえ。いいんだ。八甲田は兄貴が何と言おうが、おらだけは味方だ。」 「言葉まで変わったよ。冗談だよ、冗談。おいおい、そんな漬物ぐらいでくさるなよ。」 「くさってねえ。漬物は 発酵だ。(八甲田)」
「お-い、飯にしようか。今日のおかずはっと、なんだ冷奴しかないのか。冷奴もいいけど他に何かないのか?つけものかなんかでも、」 「つけものなら、たくさ(あ)んあるよ。」
「ご隠居さん、聞いておくんなさい。内のかかあときたら、しょっちゅう俺に文句ばっかり言うくせに、そのくせ俺のいうことはちっともきかねんですよ。」 「おいおい、入ってくるなりいきなりだな。なにいってんだい熊さん、近所じゃいいおかみさんだって評判じゃないか。面倒見はいいし手先は器用で料理も上手、働きモンで、そりゅあ少し年はとってるけど器量だって悪かないし・・」 「えへへ、若い頃はそりゃもうべっぴんで・・」 「へんなところでのろけるんじゃない。そもそもおまえがもっとちゃんと働いて稼ぎがあれば文句も出ないしおまえの言うこともちゃんと聞いてくれらあ。」 「そうかもしんねいですが、今日なんかね、あっしが風呂へ行ってくるんで手ぬぐい出してくれってのに、俺にお尻むけてぬかみそかき混ぜてやがって、返事もしねえ。おもしろくねえんで酒でも飲んでくらあ、って出ようとしたら『あんた、ご隠居さんところいくならこれもっていっとくれ。いつもありがとうございますって言うんだよ.』っていって、そのぬかみその中からもってきた茄子ときゅうり。ご隠居さん、いつもありがとうございます。」 「なんだい、ちゃんと話し聞いてるんじゃないか。ところでおまえさんの酒を飲みに行くというのはなにかい、あたしんちでただ酒飲むことかい?おかみさんもそれをちゃんと知ってて、、まいったね夫婦そろってまあ、でも、せっかくつけものを頂いたんでこれで一杯やるか。ああ、これはみごとなぬかづけだ。この茄子の鮮やかな色をだすのはなかなか難しいんだぞ。ぬか床は生きてるから絶えず世話してやらないといけない。この色はぬか床に釘とか鉄のものを入れて毎日かき混ぜて丹精こめてるのがよくわかるなあ。」 「え、ぬかに釘?ほらやっぱりきいてない。」
「兄貴、いや、師匠、真打ちおめでとうございます。」 「ありがとう。すごいなあ。私の好きなお漬物をこんなに用意してくれたんですね。」 「ええ、いろんな種類のお漬物を揃えました。なんせ、先輩達10人以上、一気に抜いての真打ちですから。」 「白菜、紅かぶら、大根、これは干して漬けたハリハリ漬けだな。きゅうりの味しば、しそ巻きらっきょうか。」 「そして、瓜をみりん糀で漬けた奈良漬、白瓜の鉄砲巻き、変わったところでは、旬の菜の花、筍、桜の花もありますよ。思う存分召し上がってください。」 「桜の花まで。嬉しいですね。でも、定番の何かが足りませんよ。」 「もちろん師匠のことですから、ごぼう抜き です。」
「ささ、なにぶん田舎だで、あんたら若い人の口にあわんかもしれんが、遠慮せんと食べとくれ、」 「ごちそうさまです。なんでも食べますから大丈夫ですよ。とくにこの白菜の浅漬けなんか大好物で、いくらでもたべられますよ。」 「ほう、若いのにつけもんが好きか、じゃったらこっちのタクアンの古漬けはどうじゃな、じっくりと漬かってええ味でとるよ、 「あ、いやそのほうはどうも・・・なんせ学生時代から専門は一夜漬けばっかりで、。」
「おしょさん、またお漬物のつまみ食いですか?まだ出来ていないから、だめだと言ってるでしょ!」 「いや、その、どのくらい漬かったか心配で。そ、それを確かめただけじゃ。」 「もう、何回言ったらわかるんですか?それに、重い漬物石を何回も上げ下げしたら腰に悪いですよ。」 「わ、わかった。もうやめる。きちんと出来てから食べる。約束する。」 「昨日も言ってましたよね。出来るまで我慢してください。今度は守ってくださいよ。」 「しかし、なかなか漬からんなあ。漬物石が少し軽いからかなあ。」 「何言ってるんだか。自分が、しょっちゅう開けるからなのに。」 「ん?何か言ったか?どうだ、おまえもそう思わんか?」 「はいはい、確かに 意思 が軽いからです。」
「定吉、今夜の夜桜見物の用意は出来ているか?」 「はい。お酒に、煮物に、おつけ・・あっ!お漬物を忘れてました!」 「もう時間が無いぞ。無きゃ、まあ仕方がないが、できるなら早く漬物屋へ行って一品でも用意しなさい。」 「すみませ〜ん。こんばんは〜こんばんは〜」 「おや?小僧さんじゃないか。こんな時間に、息を切らしてどうしたんだい。」 「実は、まだお漬物が残ってたら、わけてもらいたいと思いまして。」 「今日はもう、おしんこうと奈良漬しか残ってないなあ。どっちにする?」 「おしんこうに奈良漬か・・・どっちにしようかなあ。」 「ところで、あわててたみたいだが、お金は持ってきたのかい?」 「しまった!お金を忘れた!でも、おしんこうか奈良漬かどっちか持ってかなくっちゃいけないし。」 「迷うことはない。なら、つけ だ。」
「お前も噺家として味が出てきたな。例えるなら糠味噌に長く漬けてた古漬けだな。」 「師匠、ありがとうございます。これからも精進いたしますのでご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします。」 「うむ、早速だがね。古漬けを水にさらすように洗練していくともっと良くなるはずだ。」 「はい・・・具体的に言うとどう言う事でしょうか。」 「うむ、味は出てきたがまだ少しクサい。」 |
「あなた、あの子から電報よ!サ ク ラ チ ル・・・落ちたみたいね・・・」 「そうか。でも俺たちよりあいつの方が傷ついているはずだ。奴が元気になるのに効果のある手紙を書いてやろう。」 「そっちの友達、同期の桜と、気晴らしにお花見でも行ってらっしゃい って書くわ。」 「今が満開だろ?手紙が着く頃には散っているよ。嫌味に思われる。それに心臓が悪いのに、動悸の桜はないだろ。」 「じゃあ、そこのお寺の桜を写真に撮って、来年も桜は咲く と書き添えたら?これ効果ありそうよ。」 「来年は一緒に花見を、とも書こう。でも、どうせならあの子の学校の桜を撮ってやろう。」 「えっ?学校の桜の方がいいの?」 「そう、学校の方が 校歌 がある。」
「「おう与太!どうせお前暇なんだろ、花見行くぞ。」 「いいね〜棟梁、おらぁあれ好きなんだ。好きなんだけど首が疲れるんだよな。」 「何で首が疲れるんだよ、おめぇの言うことは相変わらずよくわかんねぇな。」 「だって棟梁、上見なきゃ見えないじゃないかぁ。」 「そりゃそうかもしれねぇが、なにものべつ見てなくたっていいだろうよ。」 「だって見逃したら悔しいじゃねえかぁ。」 「いくら何だって飲んでる間に桜は散らねぇよ。」 「桜・・・あ〜花火じゃ無いのか棟梁。」 「花火じゃねぇ!花見だ!桜を愛でながら一杯やるんだよ!これだからおめぇって奴は! 季節感ってもんがねぇのかねぇ。」 「あ〜花見か〜、おらぁ間違えちゃったよ。」 「まあいい。とっとと行くぞ。」 「さあ付いた。昨日は安ときたら花見だか見合いだか解んなくなっちまった。今日は与太、おめぇと来てんだ、景気よくぱーっといこう。」 「そうだな棟梁。」 「おう、酒は山ほど持ってきたんだ、どんどん飲め。」 「おい与太、いくら何でも飲みすぎじゃねえか。でぇじょうぶか。」 「あ〜だいじょうぶだとうりょう、ちょっとしょうべんしてくる。」 「あぁふらついてやがるよ。本当にでぇじょうぶかね。いくら景気よくったって加減ってもんがあるだろうに。」 「しかしあの野郎おせえな。どこまで行きやがったんだ。あぁ戻ってきたよ。随分長かったじゃねぇか何かあったのか。」 「しょうべんしてたらひとにかかったんだ。」 「なにやってやがんだ。で謝ってて長かったのか。」 「いやとうりょう、えらいけんまくできたんで、めんどうだからはりたおした。」 「なんて事をしやがんだ。で、相手は知ってる奴か。」 「あぁしってる。」 「誰だ。」 「ありゃかいせんどんやのごうつくじじいだ。」 「こりゃいけねぇ、今度は奉行所で桜吹雪を愛でなきゃならねぇ。」
「まだ五分咲きだというのに、あなたたちをお花見に呼んだのは他でもない。花より団子、たいしたものは無いが、つまみながら聞いてほしい。」 「旦那、俺たち3人とも魚屋ですよね。気になってしょうがねえんですよ。何なんすか?」 「実は、今年から町内で花見をすることに決まってな。そのお造り、刺し身盛りをこの中の誰かに任せたい。」 「町内?それじゃ、すごい商いになるよ!で、じゃんけんかなんかで決めますか?それともにらめっこ?」 「いや、これから皆さんには目隠しをしてもらう。魚の切り身を出すから、鼻だけで何の魚か、産地はどこか答えてもらう。当たった者に注文しよう。」 「え〜?旦那、ちょ、ちょっと待ってください。魚吉さん、魚辰さん、あの・・・」 「何を3人でボソボソ話しているんだ?」 「そう、で、今年は魚政さんに勝ちを譲って、来年は魚吉さんって風に順番に・・・ボソボソ・・・」 「こりゃだめだ。鼻より談合だ。」
「安、おめぇもそろそろ、かかあを貰わなきゃなぁ。」 「そうなんだよ棟梁、もし良かったら世話してもらえねぇですかね。」 「そうしてやりてぇんだがちょいとおめぇに合う年恰好の女の心当たりがねぇんだ。」 「そうですか、あっ棟梁、あそこ歩いてるのご隠居じゃねぇですかね。ご隠居に相談してみたらどうだろう。」 「そうだな。 よっ! ご隠居! こっちこっち!」 「やあ棟梁と安っさんじゃないか、二人で花見かい。」 「そうなんですよ、良かったらご隠居もご一緒に一杯どうですか。いや実は相談したい事もありやして。」 「そうかい、じゃあ折角だからご相伴にあずかろうかね。」 「ところでご隠居、そちらのお連れの若い娘さんはご隠居のあれですかい。」 「おいおい変なことを言わんでおくれよ。この娘はお清と言って、わしの古くからの友人の孫娘だよ。今晩、碁の約束を していたんだが、急に来れなくなったんでお清が知らせに来てくれたんだよ。若い娘を一人で帰すのもあれだし送りがて ら夜桜でもひやかしていたところさ。」 「そうでしたか、こりゃあいすいません。時にご隠居相談なんですがね、安の事なんですがそろそろ身を固めさせてやり てぇと思いやして、誰か良い相手を世話してやって貰えねぇでしょうか。」 「なるほどそろそろ良い頃合だね。安っさんに合う年恰好の・・・うーん・・・あっ棟梁来る途中にあったおでん屋に河岸をか えよう。」 「そこの娘さんを世話してくれるんですかい。」 「いいや違う。」 「なら折角花見に来たんですからここでいいじゃねぇですか、おでんなら安にひとっ走り買いにいかせやすよ。」 「野暮なこと言うもんじゃないよ棟梁。」 「粋にな事にかけちゃ一と言って二とは下らないあっしが野暮ってんですかい!、訳を聞かせておくんなせぇ!」 「まあ棟梁落ち着いて。良く見てごらんよ、夜桜に中てられてか若い二人がほんのり色づいてるじゃないか。」
「教授!この前の 飛鳥花見遺跡 から、今度はミイラが出てきました!」 「何?あの遺跡から?ほう、木の冠を被っている。女性だ。名前は さなえちゃん だな。」 「骨を見れば性別はわかるけど、名前までわかっちゃうんですか?」 「イセキと言えばサナエだ。」 「立派な人なんだけど・・・時々、この人について行っていいもんか迷うんだよな。」 「冠に字が書いてあるぞ。失敗桜観賞 そうか、かなりの美人だったようだな。」 「まただよ〜。桜を見るのに失敗してるんでしょ。なんで美人なんですか?」 「失敗桜観賞だろ。今風に訳してみろ。ミス花見 だ。」
「先輩、会社の花見って面白いですね、なんか上司とかと一緒だとたのしめないんじゃないかと思ってましたけど、なんかみんなふだんと違ってよく笑いますよね、」 「ああ、これがわが社の好例だ。今日1日はたとえ厳しい鬼部長であろうと、女子社員をいたぶる鬼のようなお局様でもみんな笑顔だ。」 「ほんとに、いつもはにこりともしない人たちが、きょうはまるで人が違ったようで,」 「うん、じつはこれにはちょっとしたからくりがあってな、おまえら新入社員はあすからその業務についてもらう。」 「え、なんですか?そのからくりの業務って?」 「来年も鬼達を笑わすために、明日から来年の花見の場所とりをするんだ。その間来年の花見のことについてずっと話しつづけるんだ。これ、業務命令!」
「一雨来そうだな。花見も今日までだ。さっさと品物売り切っちまおうぜ。」 「でもさあ兄貴。地球ゴマって言うの?これ。今時こんなの売れないですよ。」 「こんなに花見客がいるんだ。て言っても人が寄ってこないなあ。よし、あそこにいる子供らをサクラに使おう。」 「ねえ、僕たち、後でいいものをあげるからさあ、このコマをすげ〜って褒めてくれないか。」 「いいよ。」「わあ、かっこいい!」「このコマって廻るんだ。」「楽しい!すぐ飽きそうだけど。」 「兄貴〜全然人が集まりませんよ。」 「ねえ、おじさん。早くいいものチョウダイ!ねえ!」 「仕方ねえなあ。ほら、飴玉やるから、もっと騒いでおくれ。」 「え〜!?飴?そんなんじゃ、もうや〜めた!」「僕もやめた。」「僕も・・・」 「兄貴、もっといい物出してくださいよ。みんな行っちゃったじゃないですか。」 「ほらな。アメでサクラが散った。」
「教授!弥生時代の遺跡のはずれから、変わった土器が出てきました!」 「こ、これは!?盃ではないか!しかも桜の花びらの化石もあるぞ!」 「ということは、弥生時代の人も、お花見をしていたということですかね。」 「な、なんだ、この胸の うづき は・・・・わかった!これは、もう少し新しい4世紀頃の飛鳥時代だ。」 「えっ?どうしてそんなことがわかるんですか?」 「お花見だろ?弥生(3月)の次だ。」 *3行前の 卯月 も一応伏線です。
「へえ〜、近くの裏山だって馬鹿にしてたけど、桜がいっぱいあるんですねえ。」 「だろ?たくさんの人がお花見をしてるよ。俺たちも始めようぜ。」 「さあ兄貴、ぐっといってください。あれ?あそこ、坊主が宴会してますよ。」 「なにが般若湯だ。後家さんに 今夜どう? って言われてんだよ。」 「ハハハ・・・あそこで木にぶらさがっている奴がいますよ。ありゃまるで猿だね。」 「東京で売れてる猿、みんな木から落ちろ!」 「どっかで聞いたよね・・・あっ、あっちでは、ブーブー文句言ってるのがいますよ。豚みたいに。」 「ありゃあカツラだね。周りの人が逃げてゆく、トンズラだ。ん?どうしたんだ。笑えよ。面白えだろ!」 「はいはい。ハハハ・・坊主に猿に豚。あと河童がいれば、天竺に行けますね。」 「河童?本当にいるのか?見せてもらおうじゃねえか。さっさと連れてきやがれ!」 「兄貴〜たとえですよ。たとえ。西遊記知らないんですか?」 「なに〜?河童が援助交際を交友費として認めろって言ってんのか!」 「は〜・・・隣にトラがいたよ。」
「ああ、おまえさんたちに集まってもらったのは他でもない。じつは長屋の連中で花見にくりだそうと思うんだが、みんなに連絡してくれないか?」 「大家さん、去年みたいにタクアンを卵焼き、大根をかまぼこなんていうんじゃないでしょうね、肝心の酒なんか酒柱がたってやがって、、」 「いやいや、今年はまがいもんは使わない。ほんものだ。」 「お!今年は本物の卵焼きにかまぼこが食えるんで!」 「本物のきゅうりの塩もみだ。」 「去年より悪いよ。開き直られた。大家さん、そいじゃ長屋の連中きやしませんよ、」 「ところが今年は酒は正真証明ほんものの清酒だ、もらいもんだがな、」 「ほんとですか?ほんとなら話しは別だ。」 「ただし、ちょっと条件がある。」 「・・そら、おいでになった、まともに信用できないんだから、」 「いや、うちの娘が今踊りを習っていて、今日発表会があるんだが、おまえら観客になって盛大に拍手をしてもらいたいんだ。それさえやってくれればあとはいくら飲んでいてもいいから。」 「踊りって、どこでやるんです?」 「横丁の公民館」 「花見でもなんでもないじゃありませんか?」 「いんや、おまえさんたちみんな、サクラだ。」 |
「課長お茶です。」 「お、今日は羊羹か、昨日の大福もうまかったな。」 「おいしいですよね、最近見つけた良い店が有るんです。」 「へーそうなんだ、でもいつもいつも皆の分買ってくるんじゃ大変だろ。」 「いえいえ自分が食べたくて買ってくるんです。それに一人で食べたんじゃおいしくありませんから。」 「そうはいってもなぁ、あっそうだ明日の昼は鰻をご馳走しよう、良い店があるんだ。」 「そんな高いもの悪いですよ。」 「いやいや遠慮するな。和菓子の恩だ。」
「9回裏、0対0、ノーアウトランナー1塁か。次は、田原だなあ。」 「武田監督!このクラス対抗野球、卒業前に一度でいいから 野村を出してやってください!」 「野村の奴、3年間真面目に練習してきたんです。最後の試合なんです。きっとヒットを打ちます!」 「代打なら近藤がいますよ。みなさん、勝負というものは感情に流されてはいけましぇん。」 「応援しているB組のみんなも野村コールしてます。奴はギターがうまいだけじゃないんです。」 「はいはい、みなさんの友情には胸を打たれました。え〜っ、代打、野村!」 「やった〜!卒業前にいい思い出ができたなあ。野村も応援のみんなも涙ぐんでるよ。」 「あ〜野村、いいかノーアウト1塁だ・・・・よし!がんばっていけ!」 「武田監督、野村にどんな言葉をかけてあげたんですか?」 「もちろん、送る言葉です。」
「卒業証書。3年B組鈴木一郎君。おめでとう、君は野球部のエースで甲子園にも出場しました。よくがんばりましたね。プロになってもがんばって下さい。」 「校長先生、ありがとうございます。日本一のプロ野球選手になります。」 「卒業証書、3年B組鈴木次郎君。君は落語研究会だったな。」 「はい。僕は歌丸師匠の弟子になります。きっとりっぱな落語家になります。」 「そうか、芸を磨いてがんばってください。では、次、卒業証書、3年B組、鈴木三郎君」 「センセ、三郎はやめて、サミーってよ・ん・で。」 「う、うほん。き、君は・・・お父さんの後をつぐんだったね。ゲイバーの経営も大変だろうががんばるんだよ。」 「はい、先生もぜひ飲みにいらして下さいね。待ってます。ウフ。」 「それにしても、君たちは三つ子なのにこんなに性格が違うとはね・・・。」 「いえ、そんなことはありませんよ。みんな一芸(ゲイ)に秀でてます。」
「卒業を記念して皆で先生に料理を作ったんです、食べてください。」 「そうか、ありがとう。早速いただくよ。ほほう鍋か、先生、鍋には目がないんだ。」 「いっぱい作ったから沢山たべてください。」 「うん、うまい。ポン酢すら家で使ってるのよりうまく感じる。」 「ポン酢も手作りなんですよ。」 「へー、何で作ったの。」 「すだちです。」
「あ、ご隠居こんにちは。良いお天気ですね。」 「誰かと思ったら熊さんじゃないか、きょうはえらくパリっとしたス−ツなんか着てるんでみまちがえたよ。どこかいったのか?」 「ええ、娘の卒業式でしてね、うちはかかぁがいねえもんですから、普段はあんんまり学校なんかいかねぇんですけど、ま、卒業式くれぇは出てやろうかと・・」 「えらいねぇ、おめえさんは。奥さんを病気で亡くしてからずっと子供達の面倒を見てきて・・」 「ええ、早いトコ子供にやしなってもらわなきゃならないと思って・・」 「それ言わなきゃもっといいのに。それにしても末のおみよチャンももう中学卒業か。親は無くとも子は育つなんて世間では言うけど、子供を育てるのはそんな生易しいもんじゃない。あたしゃ熊さんがおみよチャン背負って夜中に救急病院へ走っていったことも知ってるよ。よく頑張ったな、」 「へえ、あっしは今日式の中でなんだか無償に泣けてきて、今思い出しても涙が・・」 「おまえさんも人の親だね。そうかい、さぞ感激だったろう。」 「いえ、違うんで。おみよの小さい頃は幼稚園や小学校いっても父兄のおかあさんがまだみんな若くてぴちぴちしてたんでやすが、もう中学卒業ともなるとみんな厚化粧の間にしわが目立ってそこはかとなくたるんでて、ぴちぴちしてるのは洋服だけっていうおばさんばっかで、あの美しい人妻がこうも変貌するのかと、もう悲しくて悲しくて・・」 「おまえは綾小路か!あきれてものが言えんな。娘の卒業式に。そんなことで泣いてたのか。それでは親としてはずかしくないのか!!」 「いえ、親は泣くとも子は育つ・・」
「では、在校生代表 祝辞。寿限無寿限・・ええっと長くなるので省略。」 「はい。先輩たち、って一人だけど、卒業おめでとうございます。世間は冷たく厳しいけど頑張ってください。」 「卒業生代表、答辞。与太郎!」 「とうじ・・・?ちょっと前、おとっつあんが言ってたなあ。とうじ、とうじ・・・」 「おい与太郎。卒業生はお前だけなんだから。さっさと言いなさい。」 「あい。えっと、ポカポカ陽気が良くなったと思ってたけど、さっきの人が、石鹸が冷たいって言うから、きっと寒くて、お日様の時間が一年で一番短くて、これからもっと寒くなって・・」 「おいおい与太郎、何の話をしてるんだ?」 「冬至の話だ。」
「せんせいよぅ、世話になったな。今日は卒業式だからきっちりお礼参りにきたぜ!」 「君達、馬鹿なことは考えるな。将来に後悔を残すことになるぞ。君達は間違ってる。」 「うるせぇ、ごちゃごちゃぬかすな。ここで先公をやっちまうことにまちがいもなにもあるもんか、」 「君達はよっぽど頭が悪いな。もっとよく考えてみろ、そうすれば自分達の間違いに気がつく。」 「馬鹿でわるかったな、あったまわるいから考えられねんだよ。け、いまさら説教なんか聴きたかねえぜ。それともここで土下座でもするってのか?」 「わかった。それなら私が言うが、私は隣の小学校の教師で、おまえらの高校の教師ではない。よっぽどずる休みばっかりして先生の顔も覚えていないのか?」
「先生、おいら噺家になりたいんだけれど、噺家の大学なんてないでしょうかね。」 「あるよ。名立たる落語家が教授を引きうけてらっしゃる。」 「本当ですか。じゃあ卒業式でも見学に行ったら、そうそうたるメンバーに会えますね。」 「卒業式はない。」 「どうして。」 「落語大学では、卒業どころか進級も認めてないから。」 「どうして。」 「だって、落第(落大)だから。」
「あのさあ、ユキ。今日は、こ、こっちの道を通って帰ろうか。」 「えっ?別にいいけど。」 「あれ?変なとこに出ちゃったね。えっと、あの、その・・・」 「このホテル街の灯、大人になりたいんでしょ?うふっ、いいわよ。」 「い、いいの?ごくっ」 「いてて、痛〜い!も、もうカンベンしてよ〜ねえ、ユキ〜。」 「ユキじゃない!女王様とお呼び!大人になりたいんでしょ。子供から卒業したいんでしょ。さあ、唄いなさい!」 「くすん・・♪ホテルの光〜マゾのユキ〜♪・・・・・」
「おや?箱にいっぱい入ってた足袋(たび)、とうとう無くなったな。」 「ああ、あれ。子供が入学の時に買い込んだやつか?」 「そうだよ。なんだ、この足袋の山は、って聞いたらおまえさあ。」 「かわいい子には足袋を履かせろ だとずっと思ってたんだよ。だから・・・」 「旅させろ だって言っても聞かず頑固に履かせてたよなあ。その子も卒業かあ。親が馬鹿でも子は育つ。」 「それ、ちょっと違わねえか?」 「ま、ともかく、めでたい卒業だ。新しい足袋は買ってやらねえのかよ。」 「いや、これから 足袋絶ち(旅立ち) だ。」 |